研究活動をしていると、さまざまな方との出会いがあります。作家の多胡吉郎さんもその一人。
先日、多胡さんにお目にかかる機会を得ました。その際にご著書『韓の国の家族』(淡交社、2008年)を頂戴いたしました。
多胡さんと韓国の陶芸家・趙誠主氏一家との20年以上に及ぶ心温まる交流の足跡を描いた作品です。
日韓関係(特に韓流ブーム以前)といえば、とかく殺伐とした話に偏りがちですが、この本はそれとは無縁です。ただただ個人と個人の友情をつづっています。
確かに日韓関係には難しい問題が横たわっていますが、しかし一方で個人レベルでは政治抜きの交流が普通に行われています。この本はあらためてそのあたりまえの事実に気づかせてくれます。
韓国に関心のある人はもちろん、韓国=反日?と思ってしまっている人にもぜひ読んでもらいたい一冊です。(近々図書館にも入ります)
多胡さんと私のお付き合いの始まりはもう2年近くも前になります。当時多胡さんがご自分の作品を執筆するにあたって、関連する資料や論文等を探していたところ、私の論文が目に留まり、メールでお問い合わせをしてこられたのでした。
自分の研究成果について見ず知らずの方から問い合わせや相談がくることはたまにありますが、もちろんうれしいものです。いろいろと私の知っている限りのことをお答えしたのでした。それ以来、月に1度程度の頻度で、問い合わせがあり、それにお答えするという関係が続きました。
そんなこんなで今年の6月に、多胡さんが一時的に日本に帰国されるとの連絡を受けました。(ちなみに多胡さんは現在イギリス在住です) もちろんこの機会にぜひお会いしたいと。多胡さんはまたすぐに日本を離れるということでしたので、私も何とか都合をつけ、東京でお会いすることにしたのでした。
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多胡さんが、この本の主人公、陶芸家・趙誠主氏一家とめぐり合ったのは80年代の終わりの頃でした。当時の韓国は軍閥政治が打倒され、やっと民主化が達成されたばかり。ソウル五輪が開催される(88年)という時期です。韓国の80年代はまさに今と真逆。まだまだ政治の季節です。反日感情も今よりずっと強い時代です。
しかし、その時期に多胡さんは趙さん一家とめぐり合い、毎年韓国を訪れ、まるで家族の一員のように生活をともにします。趙さん一家は多胡さんを、周囲の目も気にせず、本当の家族のように受け入れます。多胡さんは、趙さん一家の日常の生活や会話を通して身内の目線から、その経験を描いていくのでした。
80~90年代の日韓の"政治"や"経済"を扱った本は数多あります。しかし、"情"を扱った本はあまりお目にかかりません。(茨木のり子さんの『ハングルへの旅』も、そういった本の数少ない一冊だと私は思います。興味のある方はぜひそちらもご一読を。)
日常的な交流の様子が、新鮮に見えるのは、それだけ日韓の関係が非日常的であったという証しでしょう。そのような交流を約20年も続けてこられた多胡さんの著書には、ちょっとやそっとではとうてい追いつけない時間の重みが確かにあります。時代の流れ、社会の変化に時に戸惑いながらも、多胡さんは80年代、90年代、そして2000年代と一家を見つめ続けてきたのでした。
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私とお会いした後、多胡さんはすぐに韓国へ旅立ちました。この本にも登場する趙さん一家のご長男が結婚するのだそうです。多胡さんがご長男に出会ったときはまだ小学生。時には人生の悩み事を打ち明けられたことも。結婚式ではスピーチまで頼まれたのだそうです。「韓国語でスピーチしなければならない」と照れくさそうに話していた多胡さんが印象的でした。


